信用調査（与信調査）は、取引先や顧客の信用力を事前に確認し、未払いリスクや経営破綻といったトラブルを未然に防ぐための重要な手段です。とくに取引額が大きい法人間取引では、相手の支払能力を見極めることが、ビジネスの安定と成長に直結します。大企業だけでなく、中小企業や個人事業主にとっても欠かせないリスク管理のひとつです。
本記事では、信用調査とは何か、その基本的な仕組みから、調査の方法、結果の見方、調査後の具体的な対応策まで、初めての方にもわかりやすく解説していきます。正しく理解し、自社の取引判断に活かすことで、より安全で信頼性の高いビジネスを構築する一助となるでしょう。
信用調査（与信調査）とは？
信用調査（与信調査）とは、取引先や顧客の支払い能力や経営の健全性を客観的に把握するための情報収集・分析プロセスです。具体的には、相手先企業の財務状況、取引履歴、支払いの実績、業界内での評価などを調べ、その企業と継続的な取引をしても問題がないかを判断する材料とします。
とくにBtoBの取引においては、商品やサービスを提供した後に代金を受け取る「後払い」が一般的です。このようなビジネスモデルでは、相手先の支払い能力が不十分であれば、未回収リスクを抱えることになります。そのリスクを減らすために、事前に調査を行うことが求められます。
取引先をよく知らないまま契約を結ぶと、万が一のときに対応が遅れ、損失が拡大するおそれがあります。一方で、適切に実施すれば、信頼できる取引先を見極めることができ、安心して長期的な関係を築くことができます。
与信管理の一環として、信用調査は経営判断の重要な材料になります。企業規模にかかわらず、安定した取引関係を築きたいと考えるなら、戦略的に活用することが、リスクを避ける第一歩といえるでしょう。
信用調査と与信管理の違い
信用調査と与信管理は、どちらも企業が取引先の信頼性を確認し、リスクを抑えるための重要な業務ですが、目的や範囲には明確な違いがあります。
信用調査は、ある特定の企業や個人が「信用できるかどうか」を判断するための情報収集・分析作業を指します。主に新規取引の開始時や、既存の取引先に異変が見られた場合に実施されます。調査の対象は、財務状況、取引履歴、支払い実績、訴訟履歴など多岐にわたり、それらを総合的に判断することで、相手の経営基盤や支払い能力を評価します。つまり、「今、この相手と取引して大丈夫か」を判断するためのスポット的な行為です。
一方、与信管理は、取引の開始後も継続的に相手先の信用状態を監視し、取引額や支払い条件などを調整していくプロセス全体を指します。信用調査で得た結果をもとに与信限度額を設定したり、定期的にモニタリングを行ったりするのが与信管理の役割です。取引が長期化するにつれて、相手先の業績が変化することもあるため、リスクを見逃さないよう常に管理体制を整えておく必要があります。
つまり、信用調査は与信管理の一部であり、「調査」だけではリスク管理として不十分です。健全な取引関係を維持するには、調査で得た情報をもとに、継続的かつ戦略的に管理していく「与信管理」が不可欠です。両者をセットで考えることが、ビジネスの安定と発展につながります。
信用調査が必要になるシーン
信用調査が必要になる場面は、企業活動の中でさまざまに存在します。特に注意したいのは、新規取引を開始するタイミングです。相手企業のことをよく知らないまま契約を結んでしまうと、後から支払いトラブルや倒産などのリスクに巻き込まれる可能性があります。そのため、初回の契約前には必ず信用調査を行い、相手の経営状態や過去の実績を把握しておくことが望まれます。
次に、取引金額が大きくなる場合も調査が必要です。少額の取引では問題がなかった相手でも、大口の取引になると資金繰りが厳しくなり、支払いの遅延や不履行が発生することがあります。与信限度額の見直しを含めた事前の調査が、安全な取引継続の鍵を握ります。
長年付き合いのある既存取引先であっても、経営環境の変化や業績の悪化が見られたときは要注意です。たとえば、納品スピードの低下や担当者の頻繁な交代、決算公告での赤字転落など、わずかな変化が大きなトラブルの前兆であることもあります。このような兆候を感じた際にも、改めて調査を実施することでリスクの兆しを早期に掴めます。
業務提携や出資・M&Aを検討する場面でも、相手の健全性を客観的に把握するために欠かせません。表面的な情報だけで判断せず、信頼性の高い調査を行うことが、後のトラブル回避や企業成長の礎になります。
信用調査の対象となる情報項目
信用調査では、取引先や顧客の信頼性を総合的に判断するために、さまざまな情報項目を確認します。まず基本となるのが企業概要です。社名・所在地・設立年・代表者名・従業員数といった基本情報は、企業の規模感や事業の安定性を把握するための出発点になります。特に設立年数が浅い企業は、経営基盤がまだ固まっていない可能性があるため、注意が必要です。
次に重要なのが、財務情報です。売上高や利益、総資産、自己資本比率などの財務指標をもとに、資金繰りや経営体力を評価します。決算書や貸借対照表・損益計算書の分析から、債務超過や赤字継続などのリスクを見抜くことが可能です。最近は財務情報の開示をしていない中小企業も多いため、調査会社が収集した外部信用情報も参考にされます。
支払い状況も大きな判断材料です。他社との支払い実績に遅延がないか、取引先からの未払い報告がないかなどを確認することで、今後のトラブルを未然に防ぐヒントになります。取引金融機関の情報も含めて、借入状況や返済履歴なども可能な範囲で確認されます。
過去の法的トラブルや訴訟歴の有無も調査対象に含まれます。官報などの公開情報をもとに、破産・民事再生・差押えの有無などをチェックし、潜在的なリスクを見逃さないようにします。取引先の風評や業界内での評判も、慎重に見極める必要があります。これらの情報を複合的に分析することで、信頼に足る相手かどうかの判断が可能になります。
信用調査を行うべき3つの理由
取引先や顧客との関係において、信用調査は単なる事前確認にとどまらず、企業経営のリスク管理の中核を担う重要なプロセスです。新規取引を開始する際や、取引金額が大きくなる場合などに、相手先の信用力を把握することで、不測の事態を未然に防ぐことができます。ここでは、調査を実施すべき主な3つの理由について、実務的な視点から丁寧に解説します。
支払い遅延や不払リスクの防止
取引先の信用状態を把握せずに契約を進めてしまうと、最も深刻なリスクとなるのが「支払い遅延」や「代金未払い」です。とくにBtoB取引では、納品後の後払い形式が一般的であるため、入金が滞ると自社の資金繰りにも即座に影響を与えかねません。こうした事態は、損失だけでなく従業員の給与支払いや仕入れ先への支払いにも波及する恐れがあるため、企業経営にとって非常に重大なリスクといえます。
信用調査を事前に行うことで、相手先が過去に支払いトラブルを起こしていないか、売掛債務の滞納履歴があるかなどの情報を把握できます。また、企業の財務状況や資本金、資産・負債のバランスなどを確認することで、今後の支払い能力に対する一定の予測も立てられます。さらに、取引開始時に与信限度額を適切に設定しておくことで、大きな未回収リスクを回避することにもつながります。
とくに景気後退や業界再編の局面では、想定外の経営悪化が起こりやすくなります。こうした外部環境の変化にも対応するための備えとして、平時からルーティン化しておくことが望まれます。信頼できる相手とだけ取引するための、最初の防波堤となるのです。
取引相手の経営・資産状況を把握できる
取引を開始する前に、相手企業の経営状況や資産構成を把握することは非常に重要です。見た目には問題がなさそうでも、実際には資金繰りが厳しく、内部で経営不振が進行しているケースも少なくありません。こうした実態を見抜けずに契約を交わすと、取引の途中で支払いが滞ったり、最悪の場合は倒産による債権回収不能に陥るリスクがあります。
信用調査では、決算書や財務諸表の内容から、売上高や利益、自己資本比率、借入金の状況などを確認できます。これらの情報により、企業の収益力や財務の健全性が見えてきます。たとえば、利益が出ていても手元資金が乏しければ、短期的な資金不足が起きる可能性がありますし、逆に安定したキャッシュフローを維持していれば、継続的な支払い能力に信頼が持てます。
資産の内訳や担保状況、他社からの債務保証などもチェックすることで、表面化していないリスクを掴むこともできます。とくに中小企業との取引では、経営者個人の資産状況や過去の経営歴なども、判断材料となる場合があります。
このように経営・資産状況を立体的に把握することで、長期的に信頼できるパートナーであるかを見極めることが可能になります。ビジネスの継続性と安全性を確保するために、事前の調査は欠かせない工程といえるでしょう。
ビジネス拡大時の保険となる
ビジネスを拡大する際には、新たな取引先や業務委託先との関係構築が避けられません。しかし、そのぶん信用リスクも増加します。こうしたタイミングで信用調査を実施することは、拡大戦略の安全補償として大きな意味を持ちます。特に取引規模が大きくなるほど、1社の債務不履行が与えるダメージも比例して深刻になるため、事前の調査は不可欠です。
たとえば、新規の仕入先と年間契約を結ぶ場合、相手企業の財務状況を知らずに踏み切ってしまうと、納品の途中で倒産してしまうリスクもあります。また、外注先に業務を委託する場合でも、相手の運営体制が脆弱であれば、品質トラブルや納期遅延が発生する可能性が高くなります。
調査を通じて、相手の支払い能力や経営安定性、過去の取引履歴、訴訟歴などを確認しておくことで、万が一のトラブルを未然に防ぐことができます。結果的に、ビジネスの成長スピードを維持しながら、リスクの最小化が図れるのです。
複数の候補企業からより信用度の高い相手を選ぶ材料としても、調査結果は活用できます。客観的な情報に基づいた選定は、社内外への説明責任を果たすうえでも効果的です。拡大の好機こそ、慎重な判断が求められます。意思決定を支える見えない保険として、企業の持続的成長に貢献します。
主要な信用調査の方法と比較
信用調査にはさまざまな方法があり、それぞれに特性と得られる情報の深さが異なります。自社で手軽に行える調査から、専門会社に依頼する高度な分析まで、状況やリスクに応じて最適な手段を選ぶことが重要です。近年では、オンラインツールの普及により調査の効率化も進んでおり、コストやスピードを意識した比較検討が欠かせません。この章では、代表的な手法とその特徴を具体的に解説します。
自社でできる調査方法
自社でできる信用調査は、コストを抑えつつ初期段階での相手先評価を行う手段として有効です。まず基本となるのが、相手企業の公式ホームページやプレスリリース、官報公告、SNSアカウントなどの公開情報を活用する方法です。特に最近の更新頻度や代表者のメッセージ、過去の取引実績、事業内容などを確認することで、事業の透明性や信頼性をある程度判断できます。
法務局で取得できる登記簿謄本（履歴事項全部証明書）や決算公告の有無をチェックすることも大切です。企業の設立年数や資本金、役員構成、所在地の変遷から、経営の安定性や実態の有無を確認できます。
取引先がすでに他社とどのような関係を築いているかを知るためには、既存の取引先や業界内の情報網を活用した「ヒアリング調査」も有効です。ただし、こうした調査は表面的な情報にとどまることも多いため、重大な契約や大口取引を控えている場合は、専門業者による客観的な調査と併用するのが望ましいでしょう。自社での調査は第一歩として位置づけ、継続的な確認を怠らないことが信用リスク管理の基本です。
調査会社・与信サービスを利用する場合
調査会社や与信サービスを利用することで、より客観的かつ網羅的な信用調査が可能となります。こうした専門機関は、独自のデータベースと調査ネットワークを活用し、対象企業の財務情報、支払い状況、取引履歴、訴訟・倒産歴など、表面からは見えにくい情報を詳細に収集します。とくに決算書が非公開の中小企業や個人事業主に対しても、業界平均や同規模の企業データと比較した信用スコアなどを提示してくれるのが特長です。
利用時の選択肢には、大手調査会社が提供する定期レポート型のサービスや、オンラインで即時に信用スコアを確認できるクラウド型サービスなどがあります。月額料金制のものや1件単位の都度課金型など、料金体系も多様で、自社のニーズに応じて選べます。
ただし、調査会社に依頼する際は、その会社がどのような調査手法を用いているか、どこまでの情報をカバーしているかを確認することが重要です。また、信用スコアや調査結果を過信せず、あくまでも判断材料の一部として活用する姿勢も求められます。信頼性の高い外部調査は、重要な取引判断において強力なサポートとなります。
オンラインとオフライン、どちらが効果的？
オンラインとオフライン、どちらの信用調査手法が効果的かは、調査の目的や対象企業の性質によって異なります。オンライン調査は、スピーディーかつコストを抑えて情報収集できる点が大きな魅力です。信用調査会社が提供するクラウド型の与信サービスや、官公庁・取引所の公開データベース、企業の公式サイトやSNSからの情報などを活用することで、手間をかけずに一定の判断材料を得ることができます。特に取引件数が多く、迅速なスクリーニングが必要な場合には有効です。
一方で、企業の実態をより深く理解したい場面では、オフラインによる調査が有利です。たとえば、現地訪問によるヒアリングや周辺情報の収集、関係者への聞き取りなどは、数字だけでは見えにくい経営者の姿勢や職場の雰囲気、実際の取引状況などを把握するのに役立ちます。特に中小企業や地域密着型のビジネスでは、こうした「足を使った調査」が信頼性の高い判断材料となるケースも少なくありません。
つまり、オンラインは効率性に優れ、オフラインは精度や実態把握に長けているという特徴があります。リスクの大きさや取引規模に応じて、双方をうまく使い分けることが、実践的で効果的な調査につながります。
調査結果の読み方と判断のポイント
調査結果を正しく読み解くことは、信用調査の成果を有効に活用するうえで欠かせません。ただ数値や評価を受け取るだけではなく、その背後にある経営の安定性や資金繰りの状況、過去の取引傾向などを多角的に読み取る視点が求められます。業種や企業規模によって見るべきポイントは異なり、形式的な数値判断だけでは不十分なケースもあります。この章では、調査結果をどう解釈し、リスク判断につなげるかについて詳しく解説します。
財務指標・与信限度額・過去の取引履歴の評価
信用調査の結果を判断する際、最も基本となるのが財務指標の確認です。特に注目すべき項目は、自己資本比率・流動比率・売上高・営業利益などです。自己資本比率が高い企業は倒産リスクが低く、安定した経営が見込まれます。流動比率は短期的な支払い能力を示す指標で、200％を超えていれば健全とされます。売上高や利益水準も過去数年分の推移を確認することで、成長性や収益力が判断できます。
あわせて重視すべきが、調査結果に記載される「与信限度額」です。これは信用調査会社が第三者的立場から「この程度の与信ならリスクが低い」と見積もった上限額であり、自社の取引金額がこれを大きく超える場合は慎重な対応が必要になります。もちろん、業種や取引慣習によって多少の調整は必要ですが、ひとつの基準として非常に有効です。
過去の取引履歴や支払い状況の情報も重要です。支払遅延の常習がある企業や、債務超過が慢性的に続いている企業は注意が必要です。これらの情報は総合的に判断することで初めて精度が高まり、単一の指標に依存しない分析が求められます。
業種・規模別に見る判断基準の違い
調査結果を読み解く際には、業種や企業規模によって基準を柔軟に変える必要があります。たとえば、製造業とITベンチャーでは資金の回し方や事業の特性がまったく異なり、同じ自己資本比率や利益率でも意味合いが変わってきます。製造業は設備投資が大きいため、一時的に負債が膨らんでも事業計画がしっかりしていれば問題視されない場合があります。一方、IT系のスタートアップでは黒字よりも成長性や資金調達力が評価の軸になることが多いです。
企業規模についても同様です。中小企業の場合は経営者個人の信用や保証力が重視されることが多く、決算書だけでは判断しきれないリスクが潜んでいる可能性があります。中小企業では黒字でも資金繰りが不安定なことがあるため、現預金残高や短期負債の動きに注目する必要があります。逆に、大企業では一定の財務安定性が前提とされるため、少しでも傾きが見えたときはその兆候を早期に察知することが求められます。
このように、業種や企業規模に応じて判断の視点を変えることで、形式的なスコアや数値に惑わされず、より実態に即した信用リスクの把握が可能になります。画一的な基準では見落とされるリスクを補うためにも、背景情報を丁寧に読み解く姿勢が重要です。
調査結果が不安定な場合の対応
調査結果が不安定だった場合、すぐに取引を中止するのではなく、状況に応じた対応が求められます。不安定というのは、たとえば赤字決算が続いている、直近で代表者が変更された、支払い遅延の履歴が一部あるなど、判断が難しいグレーな状態を指します。こうしたケースでは、リスクを完全に排除するのではなく、段階的に取引を進める工夫が必要です。
まず考えられるのは、与信枠の設定を抑える方法です。取引額の上限を設定することで、万一の未回収リスクを最小限に抑えることができます。また、納品後すぐの支払いを求める前払い・即時決済の契約条件に変更することも検討に値します。さらに、初回取引はテスト的に小口で始め、履歴を見ながら徐々に拡大するアプローチも有効です。
他にも、保証人の設定や、第三者保証機関の利用によってリスクを軽減する手段もあります。とくに中小企業や新興企業との取引では、過去の実績よりも今後の成長性や代表者の信用力を重視すべき場面もあり、定性的な評価も欠かせません。
最終的に重要なのは、「不安定だから避ける」ではなく、「どう付き合っていくか」を見極める視点です。必要以上にリスクを恐れず、適切なリスクコントロールを前提にした柔軟な対応が、結果として良好な取引関係を築くことにつながります。
信用調査後に取るべき3つのアクション
信用調査は実施するだけで終わりではなく、その結果をもとに具体的な対応策を講じることが重要です。たとえ調査内容が良好であっても、契約内容の見直しやリスク管理の強化に活かさなければ、調査の意味は薄れてしまいます。逆に、やや懸念がある結果であっても、取引条件を工夫することで適切な関係性を築くことは可能です。この章では、調査後に取るべき具体的なアクションを整理し、結果に応じた柔軟な対応力を養うためのポイントを解説します。
与信限度額の設定と契約条件への反映
結果を受けてからまず行うべきは、相手企業に対する与信限度額の設定です。与信限度額とは、未回収リスクを想定しながら安全に取引できる金額の上限を示すものです。たとえば相手の財務状況に不安がある場合、高額の継続取引はリスクを伴うため、月次取引額を制限したり、支払サイトを短く設定するなどの工夫が求められます。こうした数値の裏付けに基づいて契約条件に反映することで、実務上のリスクコントロールが可能になります。
初回取引時には前払いまたは代金引換など、安全性を高める決済方法を条件に加える判断も有効です。信用に余裕のある企業であれば、柔軟な条件でも問題ありませんが、調査で不安要素が見つかった場合には、過去の支払遅延歴や資金繰りの状況を考慮しながら、慎重に契約条件を設計することが求められます。調査結果を単なる情報としてとらえるのではなく、具体的な契約実務へと反映させることが、経営上の安定と安全を守る第一歩です。
モニタリング体制と定期調査の導入
信用調査は一度行えば終わりではなく、継続的なモニタリングと定期的な再調査が重要です。企業の経営状況は常に変化しており、たとえ過去に問題がなかった取引先であっても、時間の経過とともに財務状況や取引姿勢が悪化することは十分に考えられます。そのため、定期的に情報を更新し、信用状況を把握し直す仕組みを整えておくことがリスク回避に直結します。
モニタリング体制を構築する際には、担当部署や担当者を明確にし、どのような頻度でどの情報をチェックするかをルール化することが大切です。たとえば、取引金額が一定以上になった時点で再調査を行う、年次決算発表後に財務内容を確認する、ニュースや登記情報など外部要因による変化をアラートで検知するなど、状況に応じた柔軟な対応が求められます。
また、調査会社が提供するモニタリングサービスを活用することで、重要取引先の変化を自動で通知してくれる仕組みを取り入れることもできます。こうした体制を持つことで、取引の安全性を高め、万が一のリスクを早期に発見・対応することが可能になります。持続的な信頼関係を築くためにも、モニタリングは信用調査と同等に重視すべき要素です。
トラブル発生時の対処法
信用調査を行っていても、取引先の経営状況が急激に悪化し、支払いの遅延や倒産といったトラブルが発生する可能性はゼロではありません。こうした事態に備え、事前に対応フローを明確にしておくことが、企業の損失を最小限に抑えるために欠かせません。
まず、支払い遅延が発覚した場合は、すぐに連絡を取り、事実関係と支払い意志の有無を確認することが第一です。単なる資金繰りの一時的な遅れであれば、支払い猶予や分割払いの提案など柔軟な対応で解決できることもあります。ただし、曖昧な返答や連絡不通が続く場合には、法的措置も視野に入れて対応を検討する必要があります。
倒産に至った場合、債権回収の優先順位や手続きに応じた対応が必要です。破産や民事再生など、相手企業の法的手続きによって回収の可能性が異なるため、専門家への相談や書類の整備が早期対応につながります。また、信用保証や売掛金保険をあらかじめ導入しておくことで、倒産によるダメージを軽減することも可能です。
トラブルが起きてから慌てるのではなく、日ごろからトラブル発生時のマニュアルを整備し、関係部門で共有しておくことが、冷静で迅速な対応を実現します。信用調査と併せて、こうした体制の構築もリスク管理の重要な一環です。
信用調査を効果的に使うコツは？
信用調査は、単に「調査すること」に意義があるのではなく、「どのように活用し、結果を経営判断にどう反映させるか」によって、その費用対効果が大きく変わってきます。調査の深度や頻度、対象範囲を適切に選び、自社にとって本当に必要な情報を得ることが大切です。この章では、限られた予算のなかで最大の効果を引き出すための活用術や、調査の効率化、そして長期的な信頼構築にもつながる運用のポイントについて解説します。
取引規模やリスクに応じた調査範囲の最適化を行う
取引先の信用調査においては、すべての案件に対して同じ深さ・範囲で調査を行う必要はありません。重要なのは、取引の規模やリスクの高さに応じて調査の内容や精度を柔軟に調整することです。たとえば、少額で一度きりの取引であれば、インターネットや登記情報の簡易チェックでも十分なケースがあります。一方、継続的な大口取引や高額な納品が発生する契約では、決算書や商業信用調査の活用が不可欠です。
このように、相手の企業規模や過去の取引状況、支払い条件などを踏まえたうえで、必要最低限かつ的確な調査を行うことで、コストを抑えながらリスク管理の精度を高めることができます。過剰な調査はリソースの無駄となり、逆に調査不足は損失リスクにつながります。合理的な判断をもとに、調査範囲を最適化することが費用対効果を高める第一歩です。
最適な調査ツール・サービスを利用する
信用調査を外部サービスに委託する際は、どのツールや業者を選ぶかが重要な判断材料となります。まず注目すべきは、提供される情報の網羅性と信頼性です。財務データの精度はもちろん、企業の代表者情報や取引実績、訴訟履歴、倒産情報など、リスク判断に必要なデータがどれほど揃っているかを確認しましょう。また、調査レポートの更新頻度やタイムラグも比較ポイントになります。情報が古いと、実際の経営状況と大きくズレてしまう恐れがあるためです。
費用体系が明確かどうかも見逃せません。定額制なのか、調査ごとの従量課金なのか、自社の利用頻度や規模に合ったプランを選ぶことが求められます。あわせて、調査結果の見やすさやサポート体制もチェックしておきましょう。ツールを使い慣れていない場合や、判断に迷う際の相談窓口が整っていれば安心です。目的に応じて柔軟に対応できるサービスを選ぶことで、実用性とコストパフォーマンスのバランスを取ることが可能になります。
社内の管理体制を構築する
与信管理を一過性の調査で終わらせず、継続的なリスク対策として機能させるには、社内に明確なルールと体制を整えることが不可欠です。まず基本となるのが与信管理基準の策定です。これは取引金額や業種、地域、相手企業の信用スコアなどに基づき、どのような条件で信用調査を実施し、どのような基準で与信限度額を設定するかを定めるものです。ルールを明文化することで、担当者の判断に頼らず、全社的に一貫した対応が可能になります。
審査・承認フローも明確にしておく必要があります。特に高額な取引や新規の相手と契約する際は、必ず一定レベル以上の決裁者による承認を義務づけることで、リスクの見落としを防ぎます。さらに、定期的なモニタリングの仕組みも重要です。与信を付与した取引先の経営状況が変化していないか、債権の回収状況に問題がないかを定期的にチェックし、必要に応じて限度額の見直しや取引条件の変更を行います。
これらのルールと運用を社内マニュアルや研修で周知し、全社員が共通認識を持てる体制を整えることが、与信管理の質を高め、企業全体の健全な取引の維持につながります。
まとめ
信用調査（与信調査）は、企業間取引において「信頼できる相手かどうか」を見極める重要な判断材料です。取引相手の財務状況や過去の支払い履歴を確認することで、未回収リスクを未然に防ぐだけでなく、安定した経営基盤づくりにもつながります。とくに中小企業では、一件の不払いが致命傷となることもあるため、日常的な与信管理の仕組みが求められます。
調査方法には自社で行えるものから専門会社による本格的なものまであり、業種やリスクに応じた使い分けが効果的です。結果を得た後も、与信限度額の設定や契約条件への反映、定期的なモニタリングを行うことで、調査を形骸化させることなく経営判断に活かせます。コストとリスクのバランスを取りながら、費用対効果の高い信用調査を実現することが、今後の健全な取引において欠かせない視点といえるでしょう。
